Drum Circle for elderly
高齢者とドラムサークル
drum circle
for Elderly People
高齢者とドラムサークル
健康長寿
非常に一般的な概念となった「高齢化社会」:世界中の多くの国々がこれに適応し変化しています―――問題の解決に取り組むだけでなく、長く健康に生きるということの意味について理解を深めています。
公的な保健医療サービスはこれらの課題への対応が限られており、健康とウェルビーイングを促進する幅広いアクティビティの役割がより注目されるようになっています。今では社会活動やレクリエーション活動が高齢者に有益であるという確かな証拠も挙げられるようになってきました。医師が患者の健康促進と維持に関連する適切なアクティビティを正式に処方する「社会的処方*¹」の開発も現に存在しています。
能動的な音楽創作活動は、認知、メンタルヘルス、身体活力、社会性と感情におけるポジティブな結果はもちろん、ウェルビーイング全般への包括的な効果が示されており、その他の社会集団的活動に比べ常に高い幸福度を示しています。
*¹「社会処方箋」(Social Prescription):
2006年英国において、地域のボランタリーセンターやコミュニティーセンターとの連携によって医療と社会的ケアの統合を促進する目的で導入されたシステム。日本では、2014年の法改正により、地域包括ケアシステムを構成する5つの構成要素「予防」「医療」「介護」「住まい」「生活支援・福祉サービス」をうまく組み合わせて、高齢者の在宅での生活を支えることを目指しており、これがイギリスでの「社会処方」に近い考え方と捉えられる。
なぜドラムサークル?
高齢者が太鼓を叩けるの?もちろんです!ドラミングは、取り分け高齢者に向いています。
まず、太鼓は適応性の高い楽器です―――手を使う代わりに柔らかい棒を使用したり、軽量の楽器を用いたり。リズムは、年齢や文化的背景に関係なく理解しやすいものなので、祖父母と孫が一緒にビート(拍)を共有し家族全員で参加することができます。VMCのアプローチでは、全くの初心者であっても誰でもドラミングを楽しめます―――85歳で新しいスキルを学ぶ喜びと誇りを想像してみてください!
ドラムサークルは高齢者に次のような利益をもたらします:
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軽度な運動
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社会とのつながり
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精神的な刺激
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新しいことに挑戦する機会
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創造性、熟練、スキルアップの機会
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世代間交流の可能性
参加には様々な方法があります―――友達や家族とコミュニティドラムサークルに参加したり、楽器や実施上の配慮がなされている“高齢者対象”のドラムサークルに参加したり。現在では、老人ホームでも定期的に開催されていいます。
ドラミングと認知症
参加には何の障壁もありません。また、認知症においては、音楽的認識と能力がしばしば保たれます。加えて、ドラミングには脳の健康を保つために推奨される多くの仕組みが備わっています:社会的つながり、軽度の運動、精神面での挑戦と刺激。
リズムは人々を参加と交流に導くパワフルなツールです―――言葉のない会話を形にする。VMCのアプローチは、特に認知症高齢者に適しています。なぜなら、参加者は自分のリズムを創り出すことが求められ、複雑なリズムパターンを覚える必要が無いからです。
A personal story:
ある男性のお話
私は、自分が人生で初めて病院でセッションをした時のことを今でも覚えています。車椅子に座り、内にこもった様子の老人―――彼は自分の周りの世界に気付いていないようでした。リズムが鳴り始めると、私は彼が指でトントンとし始めていることに気が付きました。しばらくすると、彼の手全体が動き始めました。そして、彼の視線が上向き、何が起こっているのかと周りを見始めました。両手が動き始めたので、私が彼にドラムとスティックを2本手渡すと、とても複雑なドラムソロを演奏するではありませんか!この後、私たちは、ドラム演奏での会話を交代で楽しみ、終いには、彼は喜びいっぱいの表情を浮かべ「ほんとうにありがとう」と囁きました。セッションが終わると、看護師たちから、彼は6年間言葉を発したことがなかったことを知らされました。その瞬間から、私は音楽の力と、ドラムを演奏するに遅いということはないと確信したのです。
ジェーン・ベントリィ博士*²(訳:長江朱夏)
*²VMC認定トレーナー イギリス・スコットランド在住
2011年世界で初めて、ドラムサークルと即興音楽でPHD(博士課程)を取得。
イギリス国内だけでなく、ヨーロッパ・アメリカ・カナダなど世界中で小児病棟の子供たちから認知症の高齢者まで、医療・福祉施設を中心にで活動している。